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「コロナ禍の世界と日本の進路を考える」 -国際委員会 特別講演会-

 

国際委員会(委員長:喜多村円・TOTO㈱会長)は3月1日(月)、2020年度委員会を開催し、元外務事務次官(現三菱商事㈱取締役)齋木昭隆氏より「コロナ禍の世界と日本の進路を考える」と題してご講演いただいた。なお当日は2021年度の委員会活動について審議、了承を得た。

 

「コロナ禍の世界と日本の進路を考える」

元外務事務次官(現三菱商事㈱取締役) 齋木昭隆 氏

■中国について

中国と日本は世界第2、第3の経済大国。互いに最大の貿易相手国でもあり、経済的に緊密な関係にある一方、世論調査における日本人の対中感情は、「関係は良い」との回答が約17%、「悪い」が約82%。 中国国防費公表分の伸びは過去30年間で48倍、直近10年でも2.5倍。中国の2020年度の国防予算は日本の4倍。そして尖閣諸島周辺での中国公船の活動。今や第2人民解放軍とも言える海警が、今年2月1日から21日までに行った日本の接続水域航行は19日間、領海侵犯も6日間。日本も節度ある対応を行っているが、より強硬な姿勢を望む声もある。

■コロナ禍が世界にもたらしたもの

2月26日時点で世界の新型コロナ感染者数は1億1,296万人超。米国の死者数50万人超は、同国が近年経験した3度の戦争での兵士の死者数を上回る。これがもたらしたものは大きく三つ。一つは「経済リスク」。失われたグローバリゼーションを取り戻し、世界は元に戻れるのか? 次に「社会リスク」。格差・分断・行き場のない怒りを解消し、再び統合できるのか? そして「政治リスク」。本来政府の役割とは国の安全と社会の安定を確保すべきもの。それがかつてないほどに動揺し権威主義と民主主義がせめぎ合っている。

■四次元の地政学から見た三つのリスク  

本講演では特に日本にとっての三つの地政学リスクに絞り、“四次元の地政学”の視点を提案したい。これは私の造語であり通常は三次元。地政学における三次元とは、その国の政治・経済・社会の状況などを現時点の一コマで切り取り、立体的な角度から分析を加えるもの。対して四次元とは、これに歴史の流れ・時間軸という視点を加える。

一つ目は分断された米国。先の大統領選、バイデン支持の約8,100万人に対してトランプ支持は約7,400万人、その差僅か700万人。この数字が米国の二分を象徴している。現在マスコミは新政権に対して好意的だが、期待を寄せる一方で具体的成果が見えない、政権運営の見直しを迫られる事態に陥れば、掌を返すように批判が高まるだろう。なお、具体的成果は2022年11月の中間選挙までに求められるもので、時間は限られている。 外交面では傷ついた関係を修復中だが、成否はまだ未知数。中でも発展途上国との関係は注視したい。人権・民主主義を標榜する外交は、途上国にとってはある意味内政に係る問題につながる。米中関係については、中国は関係正常化を望んでいるはず。対する米国は香港問題・ウイグル族の人権問題などを背景に、厳しい態度で臨む姿勢。他方中国の目下の重大関心事の一つが北京で開催するオリンピックの成功。ボイコットの動きに対してどう反応するのかに注目したい。高齢大統領に事あればハリス副大統領が職を引き継ぐ可能性がある。女性で非白人の大統領誕生を受け入れる心の準備が有権者の中にあるのか、特にトランプに票を投じた人々の中に。

次に中国。今後中国は二つの100年という重要な節目を控える。今年は共産党結成100年の年。次の100年は2049年、建国100年を迎える。これらはいずれも共産党の歴史的成果を誇るもの。中国が語る夢とは、一言でいえば富国強兵。「中国は“立ち上がり”、“豊かになり”、“強くなる”」という首脳演説には、かつて列強に蹂躙された屈辱を糧に、チャイナ・アズ・ナンバーワンを目指す習近平指導部の決意が表れている。  非常に気になるのが台湾問題。台湾は元々中国の一部、これを取り戻すことは民族の目標であり指導者としてのレガシーにもつながるため、そこには相当に強い意志が働く。また今般の新型コロナへの対応しかり、中国モデルへの礼賛に対して途上国はこれを受け入れるのか、自由主義・民主主義の道を選択するのか。二つの異なる体制間の競争が、経済・ハイテク分野・軍事ひいては宇宙開発競争にまで及んでいるのが現状だ。

最後に朝鮮半島情勢。北朝鮮は今大変な苦境にある。経済制裁・国境閉鎖・度重なる天災で国民の生活は困窮の度を深め、政権は正当性を主張する材料を失っている。南北関係では、融和路線を掲げる文在寅政権に対する北朝鮮の態度は冷徹なもの。これが続くか否かは今後の日韓関係・日朝関係に大きな影響を及ぼす。また、日朝間には拉致問題が膠着状態のまま横たわり、日韓関係においては外交諸問題に対する韓国政府の姿勢に日本政府は不信感を募らせている。

■日本の役割は?

最も重要なのは自国の存立と国益を守ること。次に、自由・開放的・ルールを守る国際的枠組みを作りその中心にいること。例えばTPP、日本主導のもと関係各国の利益にかなうネットワークを構築していくことは今後も重要となる。最後に、小さな国々、例えば太平洋の島々や東南アジア・アフリカの国々、これらは皆途上国。我々のなすべきことはこれらの国々に寄り添うこと。丁寧に声を聴いて、それにできる限り応えていくことが日本の果たすべき役割ではないか。

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