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~「一帯一路」と九州の連携可能性調査~「2018年九州経済界一帯一路視察訪中団」参加レポート

1.はじめに  日中友好条約締結40周年を記念して、「九州経済界一帯一路視察訪中団」が九州中資企業協会(江蘇省中小企業日本代表処首席代表・涂家飛)主催、中華人民共和国駐福岡総領事館後援のもと計画され、10月28日から11月2日の行程で、中国の西安、太倉、連雲港を訪問。九経連より平井常務理事・中林国際部課長の2名にて参加した。

 

2.目的  中国・習近平国家主席が提唱する巨大経済圏構想「一帯一路」の重要プロジェクトである中欧班列・中欧鉄道は現在飛躍的に物量が増えている。一方日本は日欧の経済連携協定EPAの締結により日欧間の物量増加が見込まれる。 今後、重要性が増すと思われる中央鉄道沿線の重要都市と港湾施設を視察し、日欧間物流において、これまでの海上輸送、航空輸送に加え鉄道輸送の可能性を調査し「一帯一路」において九州として何が取り込めるか、また、九経連が取り組んでいる、特に農林水産物の輸出との連携可能性について検討する。 3.概要 日 程:10月28日(日)~11月2日(金)(5泊6日) 訪問地:西安市、太倉市、連雲港市 参加者:13名  (団 長)福岡貿易会・甲斐敏洋専務理事 (顧 問)九州経済連合会・平井彰常務理事 (団 員)九経連1名、製造業企業4名、物流企業3名 (主催者)九州中資企業協会・涂家飛会長 (添乗員)日中交流センター2名 ①10月29日(月)~30日(火)於西安  上海より空路にて2時間半程内陸に位置する陝西省西安市は歴史上中国4大古都の1つ、唐(西暦618年~907年)の都である長安があった場所である。遣唐使の阿部仲麻呂の記念碑があるなど隋唐の時代より日本と交流があった。予てよりシルクロードの起点として栄えた中国西部最大の都市である。  近年では「一帯一路」鉄道の要衝として注目されており、その鉄道網はユーラシア大陸各地へ7ルートを運行。その内訳は、ヨーロッパ:3ルート(所要日数16-18日間)、中央アジア:2ルート(同10日)、ロシア:1ルート(同18日間)、イラン:1ルート(同16日間)。現在、年間で約1,000本の貨物列車を運行しており、その貨物量は18万TEUに上り本数及び運搬量は中国全土でトップである。  2017年4月に自由貿易試験区が発足し、以来1年半にて約300社が進出した。会社の設立等事業の申請から認可まで1つの窓口で全て終えることができるワンストップ体制により対応しており、以前は25日かかった手続きが、現在は3日で可能となるなど、手続きの迅速化が進む。このようにハード面の整備のみならずサービス面、特にスピードに対する認識の高さが印象的であった。また、鉄道輸送と海上輸送を比較すると、時間は海上輸送の約半分であり、価格も二倍程度内に収まると想定されていることから、今後海上輸送に代わる輸送手段として鉄道利用の可能性が考えられる。  また、西安経済技術開発区内の機械製造業及び製薬会社研究施設(ドイツとの合弁企業)を視察。開発区関係者との意見交換を行い企業が進出している背景の説明を受け、更なる日系企業の進出を要望された。 ②10月31日(水)於太倉  江蘇省蘇州市太倉市は上海と隣接しており、鉄道及び高速道路にて結ばれている。上海の空の玄関口である上海虹橋空港及び上海浦東空港から共に車で1時間程度の距離に位置している。人口104万人、面積810㎦、域内GDP1,240億元を誇る。太倉市内は揚子江と38.8㎞接しており、太倉市内にある太倉港は江蘇省の入江の中で最大の港であり、揚子江の入口に位置している。揚子江(川)とはいえ海並みの水深12.5mを誇り、大型船の航行が可能で、内陸の重慶までクルーズ船が航行している。2017年のコンテナ取扱量は435万TEUで世界31位。太倉港より日本の関東・関西・九州、韓国の釜山、台湾等世界各国へ190の海路があり、博多港とは週2-3便運航しており、運行時間は丸1日程度。  近年、隣接する上海では渋滞が激化しており、上海以外のナンバープレートを持つ車両の流入を規制する等の対策を実施しているものの渋滞が慢性化。また、道路のみならず上海港(海)でも渋滞が発生している。また上海市内では、投資目的にて不動産価格が高騰。企業のオフィスビル等の賃料も上昇している。こういった状況の上海に隣接するという太倉の立地と太倉港利用のメリットから、近年上海より太倉へ移転する企業、上海近郊への進出の際、太倉を選択する企業が増加している。  家具製造業「ニトリ」の現地法人で中国国内にて製造した製品と販売先との物流拠点を運営する「似鳥太倉商貿物流公司」の視察をしたが、同社も上海から太倉市内へ移転した企業の一つだった。太倉に移転し太倉港を利用することで、上海港を経由していた頃に比べ陸上輸送距離・時間、上海港の混雑回避といった効果があるとのことである。

 

③11月1日(木)於連雲港  江蘇省連雲港市は中国沿岸の中央、江蘇省の北東部、上海虹橋空港から連雲港市内の連雲港白塔埠空港まで空路にて約1時間(約500キロ)の距離に位置する。連雲港から中央アジア・中東、さらにはオランダのロッテルダム港まで鉄道で結ばれている。日本・韓国・東南アジア等より海路にて運ばれてきたコンテナ貨物が連雲港の港にて鉄道に載せ替えられ沿線の40以上の国・地域を経由して貨物が運ばれる等、中央アジア経由の中央班列「新ユーラシア・ランドブリッジ」の東の結節点として発展する物流上の要衝である。  また、中国初の沿海対外開放都市の1つであり、国の経済技術開発区が置かれるなど、以前より経済活動も活発に行われており、特に近年では鉄道輸送の物量増加を見越し、開発・企業誘致を積極的に実施している。  2015年に中国とカザフスタンにて合弁鉄道会社「連雲港中哈国際物流有限公司」を設立し、中国・カザフスタン国際物流基地を整備。このプロジェクトは中国の習近平国家主席とカザフスタンのナザルバエフ大統領の承認を経た国家プロジェクトであり、中国側が49%、カザフ鉄道51%の出資にて運営されている。  また、同2015年に設立され、12の子会社を持ち約4,000人の社員が働く都市開発等不動産関連の国営企業「連雲港市城建控服集団有限公司」についても視察し、意見交換を実施したが、同社もオフィスビル・ホテル等の建設を含む都市開発を積極的に実施していた。意見交換では日本からの投資・進出を強く要望され、日本企業の連雲港への進出の際の情報提供を約束された。また、同社の日本での事業展開についても協力を要望されるなど、日本・九州との協力関係強化を期待していた。 4.総括  今回の視察にて巨大経済圏構想「一帯一路」の重要都市を直接訪問し関係者から生の声を聞けたことで、中国の「一帯一路」にかける想い、また、日欧EPAによるビジネスチャンスに対する反応速度の速さを感じることができた。実際、今回の各所訪問にて日本・九州からの投資進出・連携を強く要望された。 現在、中国が進める「一帯一路」は今年で5年目を迎え、その経過を振り返ってみると、 ①2013年習近平国家主席がカザフスタンとインドネシアで推進を提唱 ②2017年5月北京で「一帯一路経済フォーラム」が開催され、各国の元首首脳が出席、日本からは二階幹事長が経済界を引率して出席 ③2018年3月中国全人代で憲法改正され、習近平国家主席の2期10年の任期が「撤廃」 ④李克強首相来日、安倍首相他閣僚及び日本企業代表と面談 ⑤2018年6月青島で「上海協力機構首脳会議」が開催され中央アジア・ユーラシアとの連携が強く謳われる ⑥2018年9月北京で「中国アフリカ協力フォーラム」  開催 ⑦2018年10月安倍首相訪中、日中首脳会談開催、安倍首相「競争から協調へ」「第三国での共同開発」「ODAの終了」等を表明し、一帯一路の協力を表明 ⑧2018年11月「上海大輸入博」開催。日本企業も多数出展  このように日本政府は一定の条件はあるものの、一帯一路に協力を表明した。日中両国の関係は,今まさに「新たな段階」へと移りつつある。「日中第三国市場協力フォーラム」での協力覚書52項目締結により、今後様々な形で一帯一路に取り組む企業が増えてくることが考えられる。今後九州としてどのような取組みができるか経済界全体で取り組むべき課題だと感じた。特に博多港からの中欧班列の活用については地元及び中国各地、港湾関係機関等と可能性と具体案について検討していきたい。最後に、今回このような機会を頂いた九州中資企業協会、中華人民共和国駐福岡総領事館に感謝申し上げたい。 5.その他  2018年11月福岡貿易会創立60周年記念セミナーにて訪中団団長である甲斐専務理事が今回の訪中について報告。2018年11月環黄海経済・技術交流会議(韓国群山市)、2018年12月日中韓協力ダイアログ(中国海口市)にて九経連平井常務理事が詳細を報告した。 【国際部 中林】

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