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九州・ミャンマー経済交流ミッション2018(2月4日~9日)~ミャンマー投資環境調査と企業のビジネス展開支援~

2011年3月の民政移管以降、欧米諸国による経済制裁が解除され、経済改革を打ち出すミャンマーはアジアのラストフロンティアとして脚光を浴びた。そのような中、九州経済連合会は、九州企業の海外ビジネス支援の一環として、2013年2月にミャンマー商工会議所連盟(UMFCCI)とMOUを締結した。  さらに、2015年11月の総選挙ではアウン・サン・スー・チー議長率いる国民民主連盟(NLD)の大勝、2016年3月30日に新政権発足と内政改革が進む。民政移管時の勢いは落ち着いたとはいえ、ミャンマーは今なおASEAN諸国の中でさらなる経済発展が期待されている。  しかしながら、まだ法制やインフラ等の整備が途上であることを踏まえ、進出は時期尚早であると二の足を踏む日本企業があるのも事実である。だが今回は敢えて、投資環境調査にとどまらず、ビジネス進出の足がかりを得て、九州企業のグローバル展開の好事例とすることを目標に九州経済国際化推進機構としてミッション(団長:麻生泰九州経済連合会会長、顧問:高橋直人九州経済産業局長、参加者41名)に臨んだ。具体的には、1.現地の専門家・関係者を講師とした勉強会・視察等の投資環境調査、2.ビジネスマッチング交流会や関係機関への表敬訪問による個別企業のビジネス展開支援の2つの構成により実施した。

 

1.投資環境調査 (1)ミャンマー投資環境勉強会及び日系企業との昼食会  3名の講師を迎え勉強会を実施した。まず、ジェトロヤンゴン事務所の田中一史所長より、ミャンマー政府は現在中国等に偏る貿易相手国のバランスを改善したい意向であること、また、政府の公式発表では日本の直接投資額のみが表示され、累計10位と他国に比べプレゼンスが低く見えるが、DICAジャパンデスクの集計によると、第3国経由の間接投資も合わせれば日本の投資額はもっと上位に入ること、及び改正会社法の成立(外資の出資比率が一定限度であれば内資企業として活動可能)や最低賃金の改定(2018年4月施行予定、現行の33%増の約400円)など最新の経済トピックス等について説明があった。未整備の部分がある今だからこそ進出企業は先行者利益を得られるということであった。  次に、DAIICHI ASIA CO.LTD. の高柴剛社長より、ハイヤーサービス等の現地法人立ち上げ等の経験に基づき、法制・税制は、欧米日の制度・仕組みを導入しているので、対策が予想可能であること、日本は動きが遅いので他国に出し抜かれやすいこと、自社サービス・製品・社員との相性を考え、中長期的に将来性を判断すべきこと、覚悟さえあれば、市場開拓が無限な国であり、失敗しても引きずらず前進あるのみと団員は励まされた。また、ミャンマー人は真面目で親切な業務態度だが、自主的な創意工夫が出にくいこと、中間管理職が根付いていないため、その機能を理解してもらうのに時間がかかること等従業員を管理する上で具体的な助言があった。  最後に、㈱メトロコンピュータサービスの川崎孝代表取締役より、IT人材開発のためミャンマーに進出された経験に基づき、ミャンマー人はITに関する資質を備えており、今後は女性のみならず男性人材も増えることを期待していること、従業員からの賃上げ要求には、業務評価制度を活用した地道な対応が必要であること等人材育成・確保に関する話を聞くことができた。  参加者は、現地機関・企業ならではの実感のこもった講演に熱心に聴き入り、実態を掴むべく、意欲的に質疑応答を行った。 その後の昼食会では、勉強会の講師陣に加え、大使館及びミャンマー日本商工会議所等現地側十数名の方々に参加いただき、団員は、和やかな雰囲気の中、ミャンマーの生活・ビジネスについて意見交換し交流を深めた。 (2)在ミャンマー日本国大使館大使公邸夕食会  公邸夕食会に団員全員を招待いただいた。まず、樋口建史大使より現地情勢に関する講演があった。2016年に、日本政府は今後5年間で官民挙げて8,000億円規模の経済支援を表明、具体的にはヤンゴン都市開発、運輸及び電力開発を協力の3本柱としたこと、ついては、整備計画が示される2018年は、ミャンマー経済曙光の年と信じ、この機を活かすよう団員は鼓舞された。  その後、大使、丸山市郎公使参事官(3月5日大使着任)、田公和幸参事官及び森井一成一等書記官より、各団員の質問に対し丁寧な回答があった。スムーズな進出には良い現地パートナー企業選びが不可欠で、ミャンマー日本商工会議所等に紹介を受けるのも一つの方法であること、また、中国、韓国等と伍していくには、「日本の良い技術は高く売れる」という認識は通用しないこと等、団員はミャンマー進出に関する多くの助言を受けた。 (3)日系企業視察  2013年10月、ヤンゴン市北部に位置するミンガラドン工業団地に設立し、2017年に本格始動したIIDA ELECTRONICS (MYANMAR)CO., LTD.の山口隆マネージャーによると、タイプラスワン(タイの産業集積地と周辺国の安価な労働力を結びつけるビジネスモデル)として今後10年はミャンマーに豊富な労働力を期待しているとのことであった。質疑応答では、従業員は、主に工業団地内の掲示で公募していること、未経験者の採用が中心ながら、日本語や各技能の研修制度は設けずOJTで教育していること、また、今後の課題にルール等を従業員全員が遵守する管理システムの徹底が挙げられること等について説明があった。  次に、EDMS(電子データ加工サービス)事業の視察では、従業員10~20名毎に管理者を置き、デザイン編集に取り組む様子をガラス越しに見学した。団員は、約400名の従業員を数人で束ねる日本人代表やマネージャーが、工業団地内で現地従業員と共に生活している日常を垣間見て、進出時のイメージを膨らますことができた。 (4)ティラワ経済特区視察  日緬の官民共同出資の同特区を運営するMJTD(Myanmar Japan Thilawa Development Ltd.)の清水禎彦社長より最新状況について次のような説明を受けた。 ・契約企業89社中約6割(51社)が内需型(国内市場向け)である。 ・ミャンマーに行政サービスはないが、同特区では、ワンストップサービスセンターが機能し、手続きがスムーズである。 ・汚職撲滅宣言書も採択しクリーンな運営を実行している。 ・敷地内は上下水道、光回線、産廃処理場、税関等が整備されている。 ・さらに円借款でコンテナターミナル、道路の拡張及び橋の増設とインフラ整備が進む予定である。 ・特区全体の人材開発教育機能を担うべく、㈱フジワークが進出している。 ・住宅・商業施設も建設中で、住環境整備も進められている。  説明後、車窓から敷地内の日系企業を中心に外観を視察した。内需型では建設、農業、食品、輸出型では縫製、電機、自動車関連等の企業が建ち並ぶ。日系企業45社中19社が中小企業。他国の特区と比して企業進出のスピードが早く、事業拡大を図る企業も操業企業41社中10社ある。特区内には中小企業にも人気のあるレンタル工場(1ユニット1,500㎡)も完備されている。  次に、Yusen Logisticsを訪問し、Yusen Logistics Myanmar Co., Ltd.の三浦大輔Managing Directorより事業概要の説明があった。ミャンマーには保税制度がなく、ティラワ経済特区でのみ認められている。納品時間の短縮や資金繰り改善等メリットがあることから、同社も認可を受けた。同社では、常温のみならず、冷蔵、冷凍、定温エリアでも保税蔵置が可能である。  また、Yusen Logistics Thilawa Co., Ltd.の佐伯龍彦 Managing Directorの案内により、実際の倉庫の様子を視察し、団員は、人材育成も含めた国際物流の海外拠点の状況も学ぶことができた。

 

2.個別企業のビジネス展開支援 (1)九州・ミャンマービジネスマッチング交流会及び交流会参加者との夕食会   商談に近い形の本交流会は、今回のミッションの挑戦的企画であり、九州地域に広く本企画への参加を募ったところ、農業、インフラ(土木建設、電気、太陽光)、人材(日本語、介護)、卸売・小売(食品)、サービスなど幅広い業種から13社が参加することとなった。それに対し、UMFCCI他の支援の下、ミャンマー側のマッチング企業29社の参加を得ることができた。当日は、西村あさひ法律事務所、KPMG Advisory(Myanmar)Ltd.及びみずほ銀行による相談窓口を設け、各企業のブースには日緬通訳を配して40件の面談を行った。中にはニーズ・技術・環境が見合わず見送る案件もあったものの、面談件数の6割である24件が継続交渉となり、想定以上の結果を得ることができた。その後、UMFCCIのゾー・ミン・ウィン会頭ら多くの幹部及びミャンマー側企業にも参加いただいた夕食会では、本交流会が今後の自社及びミャンマーと九州経済の一層の発展につながることを願いつつ、交流を深めた。 (2)ミャンマー計画財務省投資企業管理局(DICA)表敬訪問  DICAのタン・スウィン・ルイン副局長を表敬し、九州企業2社から各事業(農業、土木建設)計画について説明を行った。進捗に応じた今後の協力依頼をしたところ、2社の資料を確認した副局長より、日本企業の進出を歓迎し、DICAの所掌内で可能な限り応援したい旨の回答があった。  次に、DICAジャパンデスクの田原隆秀アドバイザーより、投資関連組織と外国投資に関する概況説明があった。アウン・サン・スー・チー国家顧問のリーダーシップによる急速な経済発展を期待されがちだが、中長期的視点で捉えていただきたい旨の説明があった。その後、同デスクの上田隆文アドバイザーも含め、今後のビジネス進出に向けた熱心な意見交換があった。 (3)ミャンマー商工会議所連盟(UMFCCI)表敬訪問  UMFCCIのゾー・ミン・ウィン会頭を表敬し、DICAと同様に2社から説明の上協力依頼したところ、会頭より、事業計画の提出があれば関係当局へ繋ぐなど協力可能であること、また、九州経済連合会のMOU締結機関として、2社に限らず、事業計画を以って相談があれば、パートナー企業探し等全面的に進出支援していきたい旨の回答があった。 今後の取り組み  参加者多数のミッションであったにもかかわらず、明朗快活で規律正しい団員の見事なチームワークに支えられ、無事に執り行うことができた。また、各プログラムで精力的に意見交換が行われ、非常に充実したミッションとなった。団員の皆様に心より御礼申し上げたい。実施にあたりご協力いただいた現地機関の皆様にも厚く感謝申し上げる。  今回、個別企業のビジネス展開支援にチャレンジしたが、ミッションを通じて伺った多くのお話から、ミャンマーという国・人々に可能性を感じ、勇気を得ることができた。実際、いくつかの企業では、ビジネスマッチング交流会後に話が進み、前進の兆しがある。これらを含めた24件のビジネス継続案件の動向を追い、九州企業のミャンマーでの事業展開を後押ししたい。  最後に、団員の皆様が、今回のミッションで得たものを各企業・機関で活かしていただくことを期待している。

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